【絵本】「あめだま」ペク・ヒナ作 長谷川義史訳 粘土人形が紡ぎだす抒情的な物語
作: ペク・ヒナ
訳: 長谷川義史
出版社: ブロンズ新社
出版年: 2018年
文の量: ページごとに5~10行程度
ページ数: 全40ページ
こんな子にオススメ!
筋のあるお話が楽しめるようになってきた子
工作好きな子
手作りの粘土人形達によって表現される少年の世界の広がり
ペク・ヒナさんの絵本は、コマ送りアニメに出てくるような粘土人形達が登場します。
人形たちは表情がどんどん変化してゆき、細かな背景の作りこみと合わせて独特の世界を作り出しています。
あめだまによって1人の少年は身近なモノ、人の心から漏れる声を聞きます。
彼は周りの存在に後押しされるように自分の世界を少しずつ広げていくのです。
あらすじ
ドンドン少年はあまり友達がおらず、放課後飼い犬を連れ1人遊びをして過ごしています。
ある日、駄菓子屋(おもちゃ屋?)のおじさんから買ったのは、色も模様も様々な「あめだま」6つ。
どこかで見たような模様のあめを試しに1つ口に含んでみたら、身近な存在の本音が聞こえてきたのです。
子供の反応
息子(5~6才頃)と娘(2~3才頃)、両方ともよく「読んで」と持ってくる絵本でした。
娘の方が頻度は多かったかもしれません。
「おならせんといてくれ。つらいわ。」とあめをなめることで声が聞こえるようになったあるモノがドンドンに日頃の不満をこぼす場面があります。
この「おなら」への文句が面白かったらしく、鉄板ギャグのように毎回笑っていました。
子供って本当におならとうんちとおしっこが出てくると笑っちゃうんですよね。
ドンドンのお父さんが言う「〇〇しなさい」や「〇〇したんか?」のような指図のセリフで一面埋まったページがあるのですが、息子も娘もそこが大のお気に入りでした。
このお父さんがまた、仕事から帰ってきて早々に息子に指示ばっかり出すんです。
「しゅくだいしたんか?なんやこのじは?はずかしい。ごはんのとちゅうでトイレにいくな。」なんていう指示の長いオンパレードを息も切れ切れに読み上げると、きゃあきゃあ笑っていました。
自分に言われるとむっとするのに、あまりに過剰に並んでいると何だかおかしくなってしまうようです。
親も、並べたてられた指示のセリフの中に日頃言ってしまっているものが登場したりすると少しドキッとして反省させられました。
一方、お父さんが心の声で「すきやすきやすきや」と言うところは必ず子供達も一緒に唱えていました。
リズムが面白いのと、肯定的なセリフで気に入ったようでした。
最後の方で、あるモノが「バイバイバイバイバイバイ」というシーンでは、いつもじっとページに見入っていました。
もしかしたら「もののあわれ」を少しだけ感じていたのかもしれません。
おすすめポイント
まずは、粘土人形とこだわりの背景から生まれる奥行きのある挿し絵が面白いです。
そして、絵本の後半は、名前の付けづらい感情、あえて言うなら「もののあわれ」といった感情を子供に気づかせてくれる部分があるのではないかと思います。
粘土人形たちは、とりわけ可愛らしく作られているわけではありません。
登場する少年も父親も犬も、 それぞれのリアルなたたずまいです。
手の指紋や無精ひげもしっかり作りこまれています。
背景として出てくる駄菓子屋や部屋の中、ドンドン君の机の周りなど背景にも手抜きが一切なく、本当の存在にしか出せない奥行きを生み出しています。
少年が描いた絵が壁に貼ってあったり、駄菓子屋にあるぬいぐるみが何のキャラクターなのかまではっきり分かります
それがミニチュア、という所が面白いのです。
粘土人形によって作られる、影がある空間で撮られた写真からは、立体的に場面場面が立ち上がってきます。
ピントをどこに合わせるのかでも、その場面の印象が変わってきます。
そして、それぞれのキャラクターがその空間の中で驚いたり笑ったりしんみりしたり表情をコロコロ変えていきます。
そこがこの絵本を面白くしていると思います。
もう一つ、「あめだま」で描かれているのは笑える面白い場面だけではありません。
夕方、心がすぅすぅするようなぎゅうっとなるような気持ちを感じたことはないでしょうか。
友達と遊んでいて別れた後とか、家への帰り道での気持ちというか。
悲しい、までいかないけど、なんだか心もとない気持ち。
子供も大きくなるにつれて徐々にそういったグレーの感情に気づいていきます。
でも彼らは、まだうまく言葉にすることはできません。
「あめだま」の後半シーンは、子供にそういった楽しいと悲しいの間くらいの感情をそっと「こういう時もあるよね」と提示してくれています。
「あ、こういう感じを持ってるのは僕、私だけじゃないんだな」と気づくのは、子供にとって世界と自分の共通点を見つけたようなほっとした気持ちをもたらしてくれます。
面白い、悲しい、楽しい、などの極端なだけでない感情のバリエーションを子供にそっと教えてくれるのです。
ペク・ヒナさんと長谷川義史さんのコンビによる絵本は他にも4作出ています。
長谷川さん自身も、絵本作家として有名で味のある関西弁が持ち味の方です。
お2人のコンビで作られた絵本はどれも、とぼけた関西弁と粘土人形の味わいで不思議な空気感を作りだしています。
良かったら、翻訳されている他の絵本も読んでみてください。