【絵本】「ぶたぶたくんのおかいもの」土方久功作 「おつかい」を終えお母さんのもとへ戻る安心感
作: 土方久功
出版社: 福音館書店
出版年: 1970年
文の量: 1ページに10行程度
ページ数:全28ページ
こんな子にオススメ!
お店屋さんごっこが好きな子
少しお母さんと離れて遊びだした子
お散歩が好きな子
「おつかい」絵本の先駆け
ぶたぶたくんが初めて1人でぱんやさん、やおやさん、おかしやさんを回ってお買い物をし、お母さんの元へ戻っていくお話です。
土方久功さんは1900年生まれで彫刻家、南洋の民俗学者として活躍された方です。
こちらの絵本以外にも3冊の絵本を福音館から出しています。
ぶたぶたくんには私も子供の頃お世話になり、親子共に大好きです。
あらすじ
ぶたぶたくんは、いつも「ぶたぶた」「ぶたぶた」と言っているうちに名前まで「ぶたぶたくん」になってしまったぶたの男の子です。
ある日、おかあさんに「ひとりでおかいものにいける?」と聞かれたぶたぶたくん。
「ぼく ひとりで いけるよね。なんども おかあさんと いって しってるものね」と半ば自分に言い聞かせつつ、初めてのおつかいに出かけます。
があこちゃんとこぐまくんに道中で出会いながら、ぱんやさん、やおやさん、おかしやさんを回っていきます。
子供の反応
息子(当時4、5歳)に何度も読んだ絵本です。
1ページにここまで長い文が載っている絵本は初めてだったので、最初は少し文を省略しつつ読んでいました。
やおやさんの早口おねえさんと、おかしやのゆっくりおばあさんのお喋りの早さの違いが面白かったようでした。
2人のお喋りにコントラストをはっきりつけると、いつもクスクス笑っていました。
最後のページには、ぶたぶたくんの家、友達2人の家と買い物をして回ったお店の位置関係を示した地図が載っています。
息子はこの地図を眺めるのが好きでした。
「おうちでるでしょー。それでさいしょがぱんやさんで。つぎがやおやさんで。」と指で道をなぞりながらぶたぶた君の道のりを振り返っていました。
地図を見て位置関係を知るという行為を、この絵本で初めてしたのではないかと思います。
おすすめポイント
まずは、何といってもお店の人たちの不思議なたたずまいです。
そして、「おつかい」を実体験に先取りして体験させてくれ、その後母親の元に戻った時の安心感までしっかり感じさせてくれる所も素晴らしいです。
最後に、ぶたぶたくんの行動と巻末の地図を照らし合わせることで、子供が生活空間のとらえ方を学ぶ機会を作ってくれています。
ぶたぶたくんが行くお店の人は、皆とても魅力的です。
パン屋のおじさんは店先で椅子に座ってのんびりしているし、「かおつきぱん」という顔の形をしたお面のような謎のパンを売っています。
やおやの早口おねえさんは、ばね仕掛けのように飛び出してきては早口でまくしたてます。
おかしやのおばあさんのゆっくり言葉は、いつも早口でしゃべりすぎてるなあと反省させてくれます。
お話の緩急が、登場するキャラクターによってしっかりつけられています。
絵本の良さは、少し先の未来に本人が体験することを先取りで体験させてくれる所にもあります。
おつかいをするぶたぶたくんを通して、子供は親と離れる心細さや道中で友達に会えた嬉しさなどを疑似体験することになります。
そして、「1人でおつかい」という非常に緊張する行為を終えたぶたぶたくんは、
母親のもとに戻って
おかあさんに かじりついて、ぶたぶたくんは いいました。
「ぶたぶた。 ぼく、ひとりで おかいもの できたよ」
と告げます。このセリフが心に沁みます。
この時のぶたぶたくんの気持ちを想像すると、いじらしさにいつもちょっと泣きそうになります。
お母さんの所に無事戻り、抱きしめられるぶたぶたくんの姿に子供はほっとして、何度も「読んで」と持ってくることになるのです。
子供は幼い頃は「家」や「お店」など日常に訪れる場所の互いの位置関係をあまり認識できていないのではと思います。
しかし、巻末の地図では、おつかいの中で 点と点として認識していた店や家が地図を通してしっかり線で結ばれていきます。
世界が地図としてまとまって立ち上がってくる感じが、繰り返し読むことによって子供にも少しずつ分かるようになります。
子供の世界についての認識を少しだけ広げてくれるのが、この「ぶたぶたくんのおかいもの」なのではないでしょうか。
「おつかい」を扱った絵本としては、さとうわきこさんの「おつかい」や、筒井頼子さんと林明子さんコンビによる「はじめてのおつかい」が有名だと思います。
しかし、この「ぶたぶたくんのおかいもの」も、「かおつきぱん」や友達3人が歌う不思議な節回しの歌*1などと共に、子供にスリリングな「おつかい」の疑似体験をさせてくれます。
*1:「ぶたぶた かあこお くまくま どたじた どたあん ばたん」