【絵本】「町たんけん はたらく人みつけた」秋山とも子作 人間の行動を拾いあげる面白さ
作: 秋山とも子
出版社: 福音館書店
出版年: 1997年
文の量: 1ページに吹き出し15個程度
ページ数:全40ページ
こんな子にオススメ!
3~5歳の人間観察が好きな子
絵探しが好きな子
人々のランダムな行動によって街を描きだす
町たんけんに繰り出した小学生たちの集団を中心に、人々の暮らしぶりを描いた絵本です。
福音館書店の「みぢかなかがく」シリーズの1冊として刊行されました。
町を鳥の目で俯瞰しながら、個人の営みを観察する楽しみを教えてくれます。
あらすじ
「これから町を探検して、はたらく人を探します」そう言う先生に導かれて、小学生(4.5年生くらい)たちが町に探検に出かけます。
小学校を出発した彼らは、住宅街を進み、駅前の大きな商店街を通り、お寺の縁日まで足をのばしはたらく人探しを続けます。
彼らが出会うはたらく人たちは、焼き芋屋さん、クリーニング屋さん、電気工事の人、豆腐屋さん、大工さん、縁日の出店の人たちなど盛りだくさんです。
子供の反応
細かい絵柄にハマる時期(息子と娘共に3歳ごろ)に何度も「読んで」と持ってきました。
人々がつぶやく吹き出しが多いので読む方は大変なのですが、1人1人のつぶやきを楽しんでいました。
急いでいたりして、セリフを飛ばすと指で吹き出しをさして「この人は?」「何て言ってる?」と質問攻めにされかえって時間がかかってしまうのでした。
特に好きなパートはビルの中が断面図で描かれている部分や、屋台とお客さんの軽妙なやりとりでした。
拡大された絵で1つ1つ取り上げられたはたらく人が、引きの図でどこにいるかを探すのも面白いようでした。
おすすめポイント
まずは、人間観察をじっくり出来る点です。
描かれた人たちが独り言を言ったり内面の声を聞かせてくれるので、内面まで覗き見できるのも楽しいです。
また、今はもうない職業を「昔はこんなお店もあったんだよー」と絵と共に説明できるので、子供の視野を広げる助けにもなるのではないかと思います。
ショベルカーを操る工事現場の人や、ピッピとリズミカルにバーコードを通すレジの人など、子供ってかなり小さい頃から「仕事をしている人」を観察するのが好きですよね。
でも現実では、ついつい「邪魔になるからジロジロ見ちゃいけません」などと言ってしまいがちです。
この絵本なら、忙しそうな人も暇そうな人も誰でもじっくり眺めることが出来ます。
きっと秋山さんは、駅前にずーっと座って人間観察をして全く飽きることない人なのだと思います。
こんな絵本、人間観察が好きな人しか思いつかないです。
絵本には、普通地の文がありますが、この絵本はありません。
その代わりに描かれた人々の独り言や会話、内面の考えが吹き出しで挿入されています。
例えば、工事中の交通整理の人が「ずいぶん、車がつながってしまった」と言っていたり、屋台のぬいぐるみ売りの人が「ほーら、こんな かわいい クマさんも あるよ。ぼうや。」と呼び掛けたり、ファストフードののぼりを眺めるおばあさんが内心で「スープパンってなんだろね。」と考えたりしています。
こういった人々の考えや独り言、会話が重なり合って1つの町が成り立っていると自然に感じられるようになっています。
また、絵本のオリジナルの版は1987年に出ているので、同じ日本でも今とはかなり職業の種類などが変わってきています。
駅前のティッシュ配りの人などは見当たりませんし、携帯を持っている人もいません。
チンドン屋さんや自転車で配達するクリーニング屋さん、肩にかついで出前をするおそば屋さんなど、ほとんど見られなくなってしまった職業も数多く取り上げています。
「え、こんな仕事があったんだ」「こんな物も屋台で売ってたんだ」などと今の子供には驚きをもって読まれる部分もありそうです。
絵本から派生する親子の話題もたくさん生まれることと思います。
こちらの絵本や、「ウォーリー」のような「人混み絵本」というのは、子供は何度もくいいるように見つめます。
細かい絵というのは、まだまだ自分の知らない何かが隠れていそうな気がするのかもしれません。
そして、読み返す中で見つけた自分の発見を嬉しそうに教えてくれます。
こうした絵本は是非購入して手元に置いてもらって、何度も手に取る機会を作ってあげてほしいです。
秋山さんの他の絵本では、「でんしゃがまいります」も90年代の新宿駅のとある1日を描いて電車好きも人込み好きも満足できる作品でおススメです。
この絵本もいずれ是非レビューしたいと考えています。