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【絵本】「でんしゃにのったよ」岡本雄司作 何度見ても飽きない電車旅絵本

 

タイトル:でんしゃにのったよ
作者:  岡本雄司
出版社: 福音館書店
出版年: 2009年
文の量: ページごとに0~4行程度
ページ数:全32ページ

こんな子にオススメ!
 2~3歳の電車にはまっている子
 細かい観察が好きな子

 

 

電車のたたずまいが美しい電車絵本の名作

電車ブームが来た2歳の息子が、とにかくはまりました。

岡本雄司さんはこちらが初の絵本ですが、以前から木版画での電車作品を制作されていて、その電車愛がしっかり伝わってきます。

木版画のかすれや質感で、登場する全ての電車が魅力的に描かれています。

 

 

あらすじ

近所の小さな駅から電車の旅に出発する「ぼく」。

お父さんに見送られ、お母さんと二両編成の電車に乗って出発!

乗り換え、鉄橋、駅弁など電車旅の醍醐味を味わいます。

最後には憧れの新幹線にも。

辿り着いたのは様々な電車と新幹線の集まる東京駅。

いとこのお出迎えに、「ぼくね、でんしゃみっつのったんだよ」。

 

子の反応

息子(当時2歳)は、この本にドはまりしました。何度も何度も「ヨンデ」と持って来てはじっと聞いていました。

電車だけでなく町の様子も丁寧に描かれているので、「あ、ヤマトさんの車!」とか「これはセブンかなあ」などと指さしで見つけたものを教えてくれました。

電車が大集合する東京駅近くの線路のページでは毎回、「今日はどの電車に乗りたい?」と聞いてくるので、お互いに「今日の気分はこれかな」などと言い合っていました。

各ページの文を丸暗記して、何度も何度も背表紙が千切れてしまうまで読み込みました。

 

 

おすすめポイント

電車好きの子がいるご家庭にはぜひ一冊!もうそれにつきます。

読むたびに、線路沿いの景色も含めての電車旅を味わえます。

額に入れて飾っておけそうなほど完成度の高い電車イラストを、素晴らしい構成と共に味わえる贅沢な絵本です。

 

 

多くの子供には、電車にハマる時期があります。

ハマるきっかけは、近所の駅や線路から見えるローカル電車や、旅行で乗った新幹線など人それぞれですが、そこからの日々、彼らは熱い電車愛を心に秘めて暮らすことになるのです。(そして自動的に親も付き合わされる。)

見る本は「〇〇電車図鑑」とか、「JR〇〇特急の全て」といったタイトルの電車の写真を並べた本ばかり。

親まで、南海ラピートなどの地元以外を走る電車に妙に詳しくなってしまう。

そんな時期の子に、この絵本は電車の新たな魅力を教えてくれます。

 

電車って素材は硬くてツルツルしているけれど、実はそこまでピカピカしていなくて使われていく中で少しずつ錆びなどの使用感が出てきます。その「使われている電車」感が木版画のタッチによって非常に伝わってくるのです。

電車のたたずまいに奥行きがあると言えるかもしれません。

何度も何度もページをめくるうちに、子供はきっとその奥行きに気づきます。

そして、奥行きのある電車には図鑑写真のピカピカ電車にはない魅力があると気付くかもしれません。

 

 

また、各ページの構図も素晴らしい。

鉄橋に入る前のカーブでは乗っていないと味わえない角度に傾く電車が描かれますし、ガード下の商店街とホームの両方が丁寧に描かれているページもあります。ホームからホームをつなぐコンコースの売店も楽しい。

新幹線に乗るシーンでは、新幹線ホームで「ぼく」が待っているページの次に、ホームに滑りこんでくる新幹線が描かれることで、待ち望んでいた「ついに!」がひしひしと伝わってきます。

やっと滑り込んできた新幹線のなんと立派なこと!

そしてここでも、新幹線のドア下の錆びなどが丁寧に表現されています。

 

 

絵本全体の構成と旅の始まり、終わりがきっちり一致しているのも綺麗です。

本編が始まる前の扉絵で、お父さんとお母さんと一緒に家の車に乗った「ぼく」→本編電車旅スタート→最後の扉絵で従妹の家の車の後姿が去っていくという構成で綺麗に旅が完結しています。

 

また、顔つきで描かれるのは「ぼく」と「おかあさん」のみで、(正確には「おとうさん」と「運転手さん」も顔つきですが)他のお客さんなどは基本的に顔は描かれていません。

他のお客さんとは差別化された「ぼく」と、彼がかぶっている水色帽子のおかげで、どんなに遠くから電車を描いていても主人公の存在がはっきり分かるようになっています。それは同時に、読んでいる子が「ぼく」となり、何度でも楽しい電車旅を味わえるということなのです。